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雨衣ひとすじ久保製作所

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和歌山発祥 鰹(かつお)と醬油(しょうゆ)

皆さま、こんにちは。初鰹の美味しい季節ですね。先日、スーパーで和歌山のケンケン鰹を見つけました。さっぱりしてもちもちでとても美味しかったです。

和歌山では昔からカツオ漁が盛んです。特に県南部の串本町やすさみ町では、3月から5月にかけて、黒潮に乗って北上するカツオを疑似餌や潜航版を使っての一本釣り「ケンケン漁」が盛んです。

ケンケン漁によって獲られたカツオは、ケンケン鰹と言われているようです。

中でも、すさみ町の『すさみケンケン鰹』、串本の『しょらさん鰹』は、和歌山の2大カツオブランドとして有名です。どちらも一本一本釣り上げられ、その場で活け〆め・氷温保存されるため、新鮮さが特長です。

カツオ漁・鰹(かつお)節発祥の地 和歌山

実は和歌山県はカツオ漁・鰹(かつお)節の発祥の地。その技術を江戸時代に紀州漁民が各地に伝えたことで、全国にカツオ漁と鰹節産業が広がったそうです。

以前スタッフが千葉県館山市の「渚の博物館」を見学した際、「江戸時代(延宝2年、1674年)、紀州から房総地方に鰹節製造の燻乾法(くんかんほう)が伝えられた」と、展示されていました。

千葉県館山市の「渚の博物館」は、重要有形民俗文化財の「房総半島の漁撈用具」(漁業のさまざまな場面で使用されてきた用具類のこと)の貴重な展示があり、房総の漁業や文化を学べる博物館です。

そう言えば千葉と和歌山はよく似ていますね。それぞれ太平洋に面した大きな半島、房総半島・紀伊半島に位置し、カツオが獲れます。「勝浦」「白浜」「江見」等同じ地名もあります。

和歌山には「なめ味噌(金山寺味噌)」、千葉には獲れたてアジを味噌と一緒に細かく刻み叩いた「なめろう」という料理があります。

そして和歌山には南紀白浜アドベンチャーワールド、千葉には鴨川シーワールドがあります。縁を感じますね。

江戸で人気の初鰹の調達

さて、江戸時代に紀州から全国に伝わったカツオ漁ですが、江戸では初鰹が人気だったことはよく知られています。当時、相模湾で獲れた鰹は、押送船(おしおくりぶね)と呼ばれる人力の小型高速船で江戸に運ばれました。

広重『名所江戸百景 日本橋雪晴』,安政3. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1303205 (参照 2024-04-28)

押送船(おしおくりぶね)は約10mの船体に3つの帆と漕ぎ手8人が全力で櫓を動かすため、速く動けたとのことです。上の絵にも3艘の押送船(おしおくりぶね)が描かれています。

新鮮な初鰹を手に入れるため、海上の押送船(おしおくりぶね)まで船で押しかけて、カツオを取りに行くこともあったそうです。

魚屋の持ってくるのを待てば品が劣るとして、品川沖から船を出しておく。(現在の神奈川県)三浦三崎から鰹を積んでくる押送船を見かけて、金一両を投げ込めば、船頭は合点して、鰹魚一尾をさし出す。それを受け取って、櫓(ろ)を飛して帰る。これを名付けて真の初鰹食いという。
冨岡一成 著『江戸前魚食大全』
一般社団法人 大日本水産会 魚食普及推進センター 初ガツオは江戸時代から大人気の料理! 浮世絵から学ぶ楽しみ方


当時、カツオは辛子醬油、辛子みそ、大根おろしで食べられていたようです。人気の初鰹に対して、脂ののった戻り鰹は傷みやすく、流通と保存の問題から敬遠されたそうです。

「戻り鰹」は鰹節にも加工しにくく、塩漬けにして干したものを「塩かつお」として食されたそうです。江戸の節約おかず番付として知られる『日々徳用倹約料理角力取組』にも「塩かつお」が掲載されていました。今は西伊豆の郷土料理として親しまれています。

塩気が強いためお茶漬にすると美味しいそうです。

醬油と地域性

ところで、皆さんはお刺身にはどんなお醤油を使っていますか。
新鮮なお刺身を美味しく食べるには、お醬油の役割は大きいと思います。
一口にお醤油といっても、いろんなお醤油がありますね。

和歌山と同じくカツオで有名な鹿児島の枕崎では、甘口のお醤油が好まれているそうです。

以前九州の鹿児島・宮崎に出張してお刺身を食べた時、お醤油がもったりして濃く、とても甘かったのを覚えています。

また、愛媛に出張してお刺身を食べた時も、九州ほどではなかったですが、甘いお醬油が使われていました。調べたところ北陸地方も甘いお醤油が主流だそうです。

また、北海道では昆布醬油と言われる醬油加工品が主流だそうです。

醬油の種類と製法

醬油は日本農林規格(JAS)によって、こいくち・うすくち・たまり・さいしこみ・しろしょうゆの5つに分類されていました。しょうゆ情報センターによると、日本のしょうゆ生産量の8割以上が濃口(こいくち)醬油とのことです。

我が家でも料理からお刺身まで何にでも濃口醬油を使っています。全国で生産・消費されている一般的なお醤油ですが、地域によって違いがありますね。

淡口(うすくち)醬油の生産量は13%。これほど少ないとは意外でした。淡口(うすくち)醬油は関西では馴染のあるお醤油で、おうどんの出汁を作る時に利用されています。

そう言えば淡口醬油は「薄口」とは書かず「淡口」と書きます。しょうゆ情報センターのサイトにその理由が載っていました。

A うす口しょうゆは「薄口」それとも「淡口」?

Q しょうゆの場合は「淡口」と書くのが一般的です。「薄口」と記述すると「濃口」しょうゆよりも「味が薄い、塩分が薄い」しょうゆという誤解を与えかねないため、しょうゆ業界では古くから「淡口」を使用しています。うすくちしょうゆの本来の特徴の一つである「色が淡い(あわい)」ということから「淡」という文字を使います。
しょうゆ情報センター

たまり醬油は一般的には「さしみ醬油」とも言います。ただ、さしみ醤油の定義はないそうで、商品名に「さしみ醤油」と書かれていても、JASの分類では「こいくち醬油」だったりします。

醬油を買う前には、裏のラベルを確認しましょう。

醬油の製法

調べたところ、しょうゆは「本醸造」・「混合醸造」・「混合」の3つの製法が規定されていました。これらは商品ラベルの名称部分に「こいくちしょうゆ(本醸造)」のように記載されています。

本醸造江戸時代から続くシンプルな造り関東のこいくち醬油
混合醸造諸味(もろみ)にアミノ酸液を加えて醸造して馴染ませる九州や北陸地方の甘い醬油
混合搾った醬油にアミノ酸を加えてブレント九州や北陸地方の甘い醬油

関東のこいくち醤油は「本醸造」。九州や北陸地方の甘い醤油は「混合」・「混合醸造」が多いようです。

ちなみにアミノ酸液は大豆などの穀物を分解させたうま味成分を凝縮した液体だそうです。アミノ酸に甘みはついていないことから、甘草・ステビア・サッカリンなどの甘味料を加えるそうです。

日本醬油発祥の地 和歌山県湯浅

現在日本を代表する醬油メーカーは関東に集まっています。実は醬油発祥の地は和歌山の湯浅です。

紀美野町から車で約30分の所にある、天保12年(1841年)創業、湯浅で唯一の手づくり醬油の醸造蔵、株式会社角長さんの醬油資料館・職人蔵へ見学に行ってきました。

湯浅は、石積みの堀、堀に沿って建ち並ぶ醤油蔵、白壁の土蔵、繊細な格子(こうし)の町家など、昔ながらの町並みが残り風情があります。

醬油のもとは金山寺味噌

今から約800年前(1228年)の鎌倉時代、由良の禅寺「興国寺」の僧覚心さんが、宋(現中国)に行き、径山寺(きんざんじ)から径山寺味噌(金山寺味噌)の製法を習ってきたことが、醬油づくりのきっかけでした。

金山寺味噌が醬油とどう繋がるのか。

金山寺味噌は、米・大麦・大豆の穀物に麹菌をつけて、瓜・ナス・生姜・しそ等の夏野菜を漬け込んで作る、食べるおかず味噌です。我が家では毎朝茶粥と頂きます。

館内のビデオによると、当時、金山寺味噌を造ったところ、樽底に汁(野菜の水分等)が沈殿し、その汁が調味料としてよい味とわかったそうです。その汁が醬油の原型となり、その汁を取るためにわざわざ金山寺味噌を作るようになったそうです。

その汁を調味料として改良したのが醬油。湯浅で醬油が醸造されるようになったのは、湯浅の水がよかったそうです。

室町・安土桃山時代になると、湯浅の醬油は船に乗せ、出荷されるようになりました。
江戸時代には、上方から大量のしょうゆが江戸に送られていた記録が残っています。

湯浅醬油も江戸で販売することになり、銚子で醸造を開始。醬油作りの技術が関東、そして日本各地に拡がっていきました。

そして江戸時代中期(1700年代)以降、江戸の人々の嗜好に合わせて、関東風の濃口しょうゆが生産されるようになりました。

江戸の最盛期、湯浅に醬油屋さんは92件あったそうですが、現在は数軒になっているそうです。角長さんでは湯浅醤油の伝統「湯浅たまり」の製造手法を守って、醬油づくりを続けているとのことです。

湯浅醬油 (株)角長さん 左から 「匠」・「濁り醤」・「手づくり醤油」

湯浅醬油が江戸・日本の食文化を支えた

さて、醬油と言えば「まぐろの漬け」は江戸時代に誕生したそうです。まぐろは傷みやすくて扱いが難しく、下魚とされ、人気がなかったそうです。

まぐろが下魚とは意外ですが。

それを変えたのが醬油。江戸時代に醬油の醸造が本格化し、傷みを防ぐまぐろの「醬油漬け」が考えられたそうです。

魚の臭いや傷みを防ぎ、保存性を高め、貴重な味付け調味料として、江戸庶民の食と江戸・ニッポンの食文化を支えました。

湯浅から日本各地へ拡がった醬油は、海を越え「ソイソース」として世界各地の食卓で親しまれています。醬油づくりに関わってきた人々に感謝です。

(参考)
・すさみケンケン鰹(プレミア和歌山) https://premier-wakayama.jp/items/316/
・しょらさん鰹(プレミア和歌山)  https://premier-wakayama.jp/items/176/
・串本ポータルサイト https://www.kushimoto.jp/gourme/index.html
・魚食普及推進センターhttps://osakana.suisankai.or.jp/s-other/9899
・北海道新聞 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/874278/
・しょうゆ情報センター https://www.soysauce.or.jp/knowledge
・日本文化の醬油を知る http://www.eonet.ne.jp/~shoyu/mametisiki/reference-17d.html
・(株)枕崎市かつお公社  https://katuo-shop.jp/products/detail/95
・キッコーマン https://www.kikkoman.co.jp/enjoys/soysaucemuseum/history.html
・湯浅町役場 https://www.town.yuasa.wakayama.jp/soshiki/4/3319.html
・湯浅醬油(株)角長 http://www.kadocho.co.jp/index.htm
・醬油職人 https://www.s-shoyu.com/knowledge/0312
・(株)導水https://www.dohsui.co.jp/column/%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%81%A8%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA/

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