Tag Archives: 兵糧食

梅雨の晴れ間と梅干し

皆さま、こんにちは。このところ梅雨の晴れ間が続いていますね。洗濯物は助かりますが30度を超える蒸し暑い日が続くと、まだ体が熱さに慣れていないのか結構堪えます。汗をかき、飲み物の量も増えてきました。人によってはこれを「熱中症」と言うかもしれませんね。

蒸し暑い中、胸付きズボンを着て作業なさっている漁師さんや水産加工の皆さん、毎日お疲れ様です!

疲労回復には梅干し

疲労回復には梅干しがおすすめです。以前ブログでご紹介しましたが、我が家は年中毎朝茶粥と梅干しを食べています。水分も塩分もクエン酸も一度に摂れるのがいいところです。疲れていても一晩ぐっすり眠れば次の日は疲れが取れているように思います。

以前東京の友人に、関空の和歌山お土産物コーナーは梅干ばっかりだったよ、と言われたことがありますが(笑)和歌山と言えばやっぱり梅干し。昨年の梅の収穫量は58年連続全国一位。シェア67%とダントツです。

梅干しと言えば南高梅

先日紀美野町近くの産直市場に行ったところ、梅干しづくり用の梅を買い求めている人で賑わっていました。お目当ては梅干しの代名詞「南高梅」。県内生産量の8割以上が南高梅だそうです。ちなみに、

5月下旬~6月中旬に出回る青梅梅酒やシロップ漬け用
6月中旬~下旬に出回る少し黄色く色づいた梅梅干し用
甘い香りがする黄熟梅梅ジャム用

にするのがおすすめとされています。梅ジャムはあまり馴染がないかもしれませんが、あんずジャムに近い味で美味しいですよ。

稀少な梅も栽培

調べたところ和歌山では他の品種も栽培していました。梅干しはもちろんですが、お家でシロップ漬け梅酒を作って楽しみたいような品種です。ご紹介しますと、

・梅ジュースや梅酒にするとワインのような鮮やかな紅紫色に仕上がる稀少な梅「パープルクイーン」や「ミスなでしこ」。

・透明感のあるさっぱりした仕上がりになる「古城(ごじろ)

・うめシロップや梅酒にするときれいな紅色になる「露茜(つゆあかね)

残念ながら紀美野町周辺の産直市場では「古城(ごじろ)」以外見かけたことがなく、和歌山に住んでいながら知りませんでした。梅酒というと琥珀色。紅色や紅紫色になる梅酒、見てみたいし飲んでみたいです。

菊正宗酒造 古城(こじろ)梅酒

プレミア和歌山 「縁 -ENISHI-」 株式会社 紀州本庄うめよし(露茜使用の梅酒)

しょっぱいすっぱいだけじゃない!梅干しいろいろ

ところで、最近の梅干しはハチミツが入っていたり、りんご酢が入っていたりと、いろんな梅干しが出回っています。以前頂き物の梅干しを、パッケージをよく見ないで茶粥と一緒に食べたところ、デザートのように甘い味のはちみつ梅だったことがありました。見た目は同じなので食べるまでわかりません。

●りんご酢 梅干し

私は茶粥やご飯にはやはりしょっぱくて酸っぱい昔ながらの梅干しが好きですが、最近は健康志向の高まりか、梅干しの塩分も減塩傾向が好まれているようです。りんご酢漬けやはちみつ漬も、塩分を減らして保存性を高めるための工夫なのかもしれませんね。

アマゾンや楽天の売れ筋ランキングを見たところ、昔ながらの酸っぱい梅干し塩のみ等と表示されている商品がありました。はちみつ漬け等も広告上では梅干しと分類されているようで、その辺りどうなっているのでしょうか。

梅干しの定義

調べてみると、農水省の農産物漬物の日本農林規格があり、梅干し用語は「梅漬け」「梅干し」「調味梅干漬け」「調味梅干し」の4つに分類され、それぞれ定義されていました。

農林水産省 農産物漬物の日本農林規格

わかりやすくご紹介しますと、

・塩につけて干したもの:梅干し ※いわゆる白干梅(しらぼしうめ)
・赤じそに漬けて干したもの:調味梅干し
・私たちが梅干しと認識している「カリカリ梅」:正確には干してないので梅漬け

ということになります。

梅干しのカツオ梅はお弁当にいいですし、最近人気の調味梅漬けのはちみつ漬けもしょっぱくてすっぱいのが苦手な方にはいいと思います。ただ、調味梅干しは梅干しに比べると塩分がかなり少ないので保存期間が違ってくると思います。

「食品標準成分表(2020年版)」によると、塩分は「梅干し」が18.2%、「調味梅干し」は7.6%となっていました。

梅干しを買う時は商品ラベルの名称を見て、どの種類か、塩分は何%か、賞味期限はいつか等、確認が必要ですね。

熱中症対策に梅干し

今、建設現場では熱中症対策として、作業員がいつでも手軽に塩分を摂取できるように塩飴や塩タブレットが置いてあるそうですが、これは梅干しと同じようなものですね。

私が知っている熱中症対策の知識としては、

・人は汗をかくと体の水分とともに塩分等のミネラルも流れ出てミネラル濃度が低くなり、熱中症の症状がでる。
・そのため水分補給だけでなく塩分等のミネラルを補うことが必要。
・そしてミネラルの吸収を助ける働きがあるクエン酸を一緒に摂るとよい。

等一般的なものです。

調べて見ると、ミネラルは体の機能を調節・維持するのに欠かせない体内でつくられない微量栄養素で、食品から摂取する必要があるとのこと。

よく考えると、熱中症という言葉が世の中に出回っていなかった頃は、汗をかいて疲れる季節になると麦茶赤じそジュース梅ジュースを飲んだり、梅干し紅生姜を食べたり、塩昆布を食べたり、スイカに塩を振って食べたりしてやり過ごしていました。

梅雨の時期に摂れる、脂ののりがよい入梅いわしと梅干しを使った「いわしの梅煮」も、さっぱりと美味しく食べられるだけでなく、梅干しの殺菌力で保存性もよくなることから食べられてきたのでしょう。

梅干しにはナトリウム等のミネラルもクエン酸も含まれていますし、調べたところ、麦茶にはミネラルが含まれ、麦茶の原料である大麦には身体を冷やすはたらきがあるとされています。夏に麦茶を飲むのは理にかなっていたのですね。

スポーツドリンクを飲んだり塩飴や塩タブレットを舐めて熱中症対策を!と言われるようになる前から、私たち日本人は暑くなると水分と塩分等ミネラルの補給するという、先人の暮らしの知恵がちゃんと受け継がれた文化の中に暮らしていたのです。

梅干しの歴史

調べたところ諸説ありましたので、共通情報のみご紹介したいと思います。まず、日本に梅が伝わったのは約1500年前の飛鳥時代。梅干しの原型となる 「烏梅(ウバイ)」が中国から伝来しました。

これは青梅を薫製・乾燥したもので、現在も漢方薬のひとつになっているそうです。その後梅の木が中国から伝来し、観賞用としても楽しまれるようになったそうです。

梅干しとしては平安時代に書かれた日本最古の医学書『医心方』に梅干しの効能がとりあげられていることがわかりました。

戦国時代、兵糧食に梅干し

梅干しが日本全国に広まったのは鎌倉時代等の戦国時代。兵糧食として活用され広く普及するようになったそうです。当時武士は食料袋に、梅干の果肉・米の粉・氷砂糖の粉末を練った「梅干丸」を常に携帯し、薬としても使われていたということです。

残念ながら「梅干丸」の情報は見つかりませんでしたが、同じような昔の携帯保存食を再現したお菓子を発見したのでご紹介。何と戦国時代の伊賀の忍びの携帯保存食を再現したお菓子で、その名も『兵粮丸』(ひょうろうがん)。面白いですね。 食べてみたいです。

兵粮丸(ひょうろうがん) 紅梅屋(三重県伊賀市)

一方、「大盤振る舞い」の語源にも梅がかかわっていました。武家社会のもてなしは「椀飯」と呼ばれ、クラゲ・打ちアワビなどに、梅干しや酢・塩が添えられたご馳走でした。正月に有力な御家人が将軍に対して椀飯を奉ることを「椀飯振」と言い、それが「大盤振る舞い」の語源となったそうです。

江戸時代、食べ物・民間薬として広まった梅干し

そして、江戸時代には民間薬として使われるようになっています。そう言えば、テレビの時代劇で、よく梅干しを額やこめかみに貼っている人を見たことがあります。江戸時代の百科事典『和漢三才図会』には烏梅(うばい)がインフルエンザを含む悪性流行疫病を治し、咳・熱を止め、白梅はおできや乳腺炎に薬効があると書かれているとのことです。

また、烏梅(うばい)をキク科の植物「紅花(べにばな)」と合わせることで鮮やかな紅色の染料ができることから、衣類用の繊維を染めるのはもちろん、口紅や頬紅にも使用されていたそうです。

梅干が庶民の食べ物として広まったのも江戸時代。紀州の田辺やみなべはお米ができないやせ地が多く、農民は重い年貢に苦しんでいたところ、やせ地に自生していた「やぶ梅」が注目され、栽培が推奨され広がっていったそうです。

木材、木炭、みかんとともに梅干しが木樽に樽詰めされ、和歌山から江戸に向けて船でたくさん出荷されたそうです。江戸の人々の梅干を食べる習慣が全国に広がっていき、梅干の需要は次第に高まっていきました。朱色のしそ漬梅干が出来たのも江戸時代だそうです。

また、麦茶が庶民にも広く飲まれるようになったのも江戸時代。当時は「麦湯」と言われていました。そう言えば時代劇のテレビで、♪麦湯いらんかね~♪ と女性が麦湯を売り歩く姿を見たことがあります。江戸の街中に麦湯を提供する「麦湯店」は、夏の夜の風物詩として人気だったそうです。

明治時代、伝染病治療に役立った梅干し

明治10年代にはコレラ、赤痢などの流行があり、梅干の殺菌力が見直され需要が急増したそうです。明治40年以降は日清・日露戦争・第二次世界大戦による軍用食としての梅干し需要の増加により栽培が増加したそうです。

その後食糧難のため、梅の木を伐採してサツマイモ等を栽培したことから、梅の栽培面積が著しく減少。戦後、社会経済の復興とともに、果実類の需要も増加し、梅の栽培も昭和30年代以降は急速に伸びていったそうです。

現在、新型コロナウイルス対策にも梅干し

昨年、梅干しが新型コロナウイルスの感染や増殖を抑制することが培養細胞を使った研究で分かったと、和歌山県みなべ町の委託を受けた東海大学が発表しています。

また、紀州田辺うめ振興協議会が大阪医科薬科大学に依頼して行った研究で、梅ポリフェノールに新型コロナウイルスの感染を阻害する効果があることを確認したと発表しています。

紀伊民報さんの記事に載っていたみなべ町長のお言葉を読んで、とても共感しましたのでご紹介しますね。

小谷芳正みなべ町長も「梅は日本だけでなく、世界の人々への健康増進に貢献できる作物。今後、この成果を梅産地の財産として多くの皆さまにお伝えしながら有効に活用していきたい」と話した。 -2022年06月01日 紀伊民報道AGARA 「梅干しがコロナの感染抑制 みなべ町が研究委託、東海大発表」より-

まとめ

梅干しは飛鳥時代に漢方薬として伝来し、江戸時代に日本全国に広まったことがわかりました。いずれも梅干しの持つ殺菌力を活かし、ある時は食べ物として、またある時は薬として利用されてきました。

どんなに時代が進化してもこの構図は今も変わっていません。先人の暮らしの知恵がちゃんと受け継がれているのですね。

変わらない基本があることがわかりました。これからも大事にしていきたいです。

 

(参考資料)
・梅の収穫58年連続全国一 和歌山県がシェア67%(2022年12月05日 14時30分 更新) 和歌山 紀南 経済

https://www.agara.co.jp/article/242358
・あなたが食べているのは「梅干し」? それとも「調味梅干し」? 2020/06/06 07:30 ウェザーニュース
https://weathernews.jp/s/topics/202006/030135/
・農林水産省 農産物漬物の日本農林規格
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/22_kikaku_nousan_tukemono_150528.pdf
・文部科学省 食品成分データベース 「梅干し」
https://fooddb.mext.go.jp/result/result_top.pl?USER_ID=18354
・麦茶
https://www.marubishi-inc.co.jp/knowledge/
https://www.euglab.jp/column/nutrition/000510.html
https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=16_16055_7
・梅干し
https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=7_07022_7
・兵粮丸(ひょうろうがん) 紅梅屋(三重県伊賀市)
https://www.koubaiya.com/?pid=156042467
月向農園 何でも梅学 烏梅(うばい) 
https://minabe.net/gaku/kurashi/ubai.html
・CAMPFIRE 
https://camp-fire.jp/projects/view/526097
・トノハタ 梅の歴史
https://www.tonohata.co.jp/ume/history/
・紀州田辺梅干協同組合 梅干の効能・歴史
https://kishu-tanabe-umeboshikumiai.com/umehistory/
・うちの郷土料理 梅干し
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/umeboshi_wakayama.html
・梅干しの歴史を知ろう|梅のルーツを知るともっと梅干しが好きになる
https://www.kumaheinoume.co.jp/blog/umeblog/36740
・紀伊民報道 AGARA 2022年06月01日「梅干しがコロナの感染抑制 みなべ町が研究委託、東海大発表」
https://www.agara.co.jp/article/202437
・紀州田辺うめ振興協議会 令和4年3月 18 日 プレスリリース「梅ポリフェノールが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して阻害効果を持つことを明らかに」
https://www.tanabe-ume.jp/wpsys/wp-content/uploads/2022/03/press_up_20220318.pdf