Tag Archives: 江戸小紋

江戸っ子の意地

皆さま、こんにちは。先日、ご近所さんからタケノコとわらびをいただきました。この冬は何度も雪が降ったりして寒かったせいか、例年よりタケノコのできが遅かったそうです。

紀美野町内では田植えの準備中です。

さて、政府が備蓄米を放出したにも関わらず、米の価格は下がるどころか上がっています。さすがに関税を払ってでも輸入しようと、民間が独自に輸入する米は増えているようです。

大手スーパーは、西友が台湾米を、イオンがカリフォルニア米と国産米をブレンドした米を販売するようになりました。輸入食材店では日本の米に近いベトナム米が販売されています。

日本人なら日本のお米を食べたい、農家さんを応援したいと思っていますが、半年以上も値上りが続き家計を圧迫。国内米が買えないなら輸入米、という動きも当然です。

まずは主食の米や食料。となると、新しい春夏物の服や靴やバッグ等、ファッションアイテムにまで手が回らないこともあるかと思います。

今年のトレンドカラー

ところで、ファッションと言えば、今年のトレンドカラーは何色かご存じでしょうか。
パントーン社が毎年実施している『カラー・オブ・ザ・イヤー』は、温かみを感じるマイルドなブラウン「モカ・ムース」でした。

2025年春夏トレンドファッションのキーワードにも、ブラウンが入っていました。

茶色は一見地味ですが、同じベースカラーとして使われる黒のようにキツくないですし、紺のように堅い印象もないです。温かみのある色だと思います。

地味な茶色を粋にした時代がありました。江戸です。今回のブログも江戸にいってみましょう。

着物の生地・色・柄に制限

265年続いた江戸時代(1603~1868年)、幕府は贅沢を禁じて倹約を奨励・強制するための法令を何度か出しています。

取り締まりが厳しくなったのが、三大改革(享保の改革、寛政の改革、天保の改革)の頃のようです。

禁止令により、着物の仕様に制限がかけられました。その内容もかなり細いものだったようです。1628年(寛永五年)、農民は木綿・麻以外の着物を着ることが禁止されました。

生地だけでなくも制限されました。
紅、紫色を禁止。農民、町人、商人、武士も茶・藍・黒・鼠系統の地味な色合いの着物を着ました。

テレビの時代劇では、同心は黄八丈の格子柄を着ていますが、殿様クラスを除き、それ以外の侍や浪人は紺や濃いグレー、町人は茶色系など、地味な色の着物を着ているように思います。

町のファッションリーダーの芸者さんの着物を見ると確かに黒が多いですが、模様は華やかですし、大店のお嬢さんは華やかな色の着物を着ています。吉原の花魁はもっと華やかな着物を着ています。

禁止令の緩い時期、と設定しているのか、これらはテレビ用の演出で、実際はもっと地味だったのかもしれませんね。

生地や色にとどまらず、品代も規制されました。制限が将軍の正室の着物は銀400目以下、庶民は銀200目以下(30万円程度)、と上限がつけられたそうです。

人と同じは嫌だった江戸っ子

江戸っ子は反骨精神旺盛で、規制にも負けなかったようです。茶・藍・鼠色の濃淡を調整することでたくさんの色を生み出し、色名も〇〇鼠等、地味な名前がつけられました。

これがいわゆる「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」です。茶色で四十八、鼠色には百あるという意味ですが、数は正確ではないようで、実際にはもっとあるそうです。

地味な色でも、それぞれおしゃれに楽しみたいという庶民の思いがあったからこそ、職人による染の技術が発展しました。

鼠色

昔からある和の色、日本国内の規格、グローバルの規格などごちゃまぜですが、鼠と名前のついた色を調べて見ました。

茶色

続いて茶色について調べて見ました。緑っぽい茶色、黄色っぽい茶色、赤っぽい茶色と、かなり幅があります。地味ですが、鼠色に比べると明るい印象です。

当時のファッションリーダーは歌舞伎役者さんでした。歌舞伎役者が愛用した色に茶色が多かったそうで、色には役者さんの名前がついています。「団十郎茶」の柿色は有名ですね。

今年トレンドカラーの「モカ・ムース」と、「団十郎茶」を胸付きズボンにするとこんな感じに。ビビッドな色が多い水産合羽の中では、あまり見たことがない色味ですね。

弊社製品「エミック」のカラーバリエーション「オリーブ」は、上の色見本の「市紅茶」・「鶯茶」に近いと思います。

 

規制から生まれた江戸小紋

生地と色、そしても制限されました。
派手な柄は禁じられ、江戸の人々は縞・格子・小紋等、表向きに目立たないものを着用しました。
その結果、一見無地に見えるほど小さな柄の「江戸小紋」が生まれました。

江戸小紋は、和紙に図柄を彫って型紙を作り、生地に白抜き柄(模様)を型染めする技法です。同じ絵柄を何枚も染めることができる江戸小紋には高度な技術が必要で、型彫り師・型付け・染め等の技が発達しました。

型付けとは、生地の上に型紙をおき、防御糊を駒というヘラで塗りつけていく作業です。糊を塗った部分は色が染まらず、白い柄になります。

紙を彫る、というのがピンときませんでしたが、調べたところ、美濃和紙を3枚重ねて柿渋を貼り合わせた紙だそうです。また、柄ごとの道具があり、その道具を使って彫るそうです。

例えば、最も技術のいる「鮫柄」の場合、小さな三日月型の刃の突いた錐を生地に垂直にあて、刃をくるりと回して穴をひとつ彫るそうです。

穴は「皆(かい)」と言い、最初から最後まで同じ皆目で揃えることが必要になるとのこと。江戸小紋の代名詞「鮫柄」の中でも「極鮫」という柄を作るには、20年修行が必要になるそうです。

武士も競った裃(かみしも)の江戸小紋柄

江戸小紋流行のきっかけは、参勤交代。武士が江戸城へ出仕する時の服装に気を遣い、各藩で裃(かみしも)の小紋柄を競って作り、他藩の使用を制限したそうです。

東映時代劇YouTube 吉宗評判記・暴れん坊将軍 第01話[公式]

「江戸小紋三役」・「江戸小紋五役」と言われる柄は、格上の柄として知られています。

江戸小紋三役  鮫・行儀・通し(角通し)
江戸小紋五役  鮫・行儀・通し(角通し)・大小霰・縞

和歌山県ゆかりの紀州徳川家は、鮫柄。それも、1寸(約3.75㎝)四方に、900以上の皆目(かいめ)を彫った「極鮫」です。

当時、江戸小紋の型紙は「伊勢型紙」と言われ、紀州藩の領地、伊勢で作られました。「極鮫」は、型紙づくりのお膝元の職人技として知られています。

謂れ(いわれ)小紋

江戸小紋には、武士の裃(かみしも)柄の(定め小紋)の他に、謂れ(いわれ)小紋があります。

花鳥風月、生活用品、野菜、動物、縁起物など、普段の暮らしの中にあるものが図柄になっています。数え切れないほどあるそうです。

江戸小紋の彫り師さんら、職人チームの神わざのような技術には驚きです。

我が社も職人が合羽をひとつずつ手作りしていますが、どれも同じ品質になるよう、常に慎重に作業したいと思います。

今回、改めて感心したのは、江戸っ子の意地です。
法令を受入れつつ、代わりに地味な色柄のバリエーションを作ってお洒落に着こなしました。

着物の裏地に柄を入れたり、鮮やかな紅絹(もみ)を入れたり、赤い長襦袢を着て、地味な表着の裾から華やかな小紋柄がチラリと見えるようにする等、すごい意地です。

正義感の強い江戸っ子気質では、反抗してすぐにお咎めを受けそうなところですが。そこをぐっと堪えて、いろいろ考えて試したのだと思います。

我が社の製品に置き換えてみると、裏地に鮮やかな色や格子や縞柄を使ったり、足元の部分だけ違う色に替えたり・・・というようなことになりますが、防水仕様の生地をオーダーしている現状では、そんな物はできない、となります。

けれども江戸の文化は、できなかったことに挑戦して発展しました。

そのような江戸っ子の意地を見習って、日々仕事したいと思います。

(参考)
・VOGUE 2025年パントーンカラーオブザイヤーはモカ・ムース 
https://www.vogue.co.jp/article/pantone-color-2025-mocha-mousse
・ELLE 
春夏トレンドファッション 流行ファッションキーワード 
https://www.elle.com/jp/fashion/trends/a62744863/2024-spring-summer-trend-keyword-2411/
・トラディショナルカラーズ https://www.traditionalcolorsofjapan.com/
・カラーセラピーライフ https://www.i-iro.com/dic-nippon
・松木呉服店 ブログ 江戸の奢侈禁止令と呉服
https://819529.com/2015/06/%e6%b1%9f%e6%88%b8%e5%ba%b6%e6%b0%91%e3%81%ae%e3%83%95%e3%82%a1%e3%83%83%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e4%ba%8b%e6%83%85%ef%bc%88%e5%89%8d%e7%b7%a8%ef%bc%89%e3%83%bb%e5%a5%a2%e4%be%88%e7%a6%81%e6%ad%a2/
・松木呉服店 ブログ 江戸小紋染めとは
https://819529.com/2023/10/%e6%b1%9f%e6%88%b8%e5%b0%8f%e7%b4%8b%e3%81%ae%e6%a5%b5%e3%82%81%e3%81%a8%e3%81%af%ef%bc%88%e5%be%8c%e7%b7%a8%ef%bc%89%e3%80%80%e3%80%80%e9%ae%ab%e3%81%a8%e8%ac%82%e3%82%8c%e6%9f%84%e3%82%92%e6%a5%b5/
・和楽 https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/122635/