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さつまいもブームと吉宗公

皆さま、こんにちは。秋の味覚の美味しい季節になりました。先日もご近所さんから、畑で採れたさつまいもの天ぷら、焼き芋、栗ご飯を頂きました。

オーブンでじっくりと焼いたという焼き芋は、香ばしくて甘くて美味しかったです。焼き芋のよさは、甘くて美味しいことと、香ばしい香り。



スーパーやコンビニの入り口に焼き芋機が置いてありますが、辺りに焼き芋のいい香りが漂って、広告より効果がありますね。香りのマーケティングといったところでしょうか。

調べたところ、焼き芋の香ばしい香りは、加熱による糖とタンパクやアミノ酸の反応で、メイラード反応と言うそうです。

ホットケーキやクッキー、お肉やお魚の茶色い焼き色や香ばしい香りも、メイラード反応によるものだそう。

ご近所さんの話では、採れたさつまいもを天ぷらにすると甘みが足りず、焼き芋にしたところ甘くなったとのこと。食べて見ると確かにその通りでした。

同じさつまいもでも、焼き芋にするとなぜ甘くなるのか、調べて見ました。

甘味成分 麦芽糖(ばくがとう)

日本いも類研究会の「おいもQ&A」によると、焼き芋が甘くなるのは、

さつまいもを加熱するとでん粉(糖質)が糊化する 

糊化したでん粉の温度が70度前後になると消化酵素(β-アミラーゼ)がでん粉に作用

甘味成分 麦芽糖(ばくがとう)ができる

という仕組みのようです。70度前後で麦芽糖(ばくがとう)ができ、甘くて美味しい焼き芋になることがわかりました。

消化酵素(β―アミラーゼ)は75~85度以上で作用しないそうです。

だから、高温で短時間加熱の天ぷらは甘みがでず、ゆっくりと時間をかける焼き芋は甘みが強くなるわけですね。

さつまいもブーム

おかずからお菓子までいろいろな食べ方があり、老若男女に親しまれているさつまいも。ここ数年、さつまいものイベント、焼き芋専門店、さつまいもスイーツが話題になる等、さつまいもブームが続いています。

背景には、さつまいもの品種改良が進み、糖度が高まって食感もねっとりする等、いろんな種類のさつまいもが増えてきたことにあるようです。

安納芋が流行るまで、さつまいもと言えば、鳴門金時紅あずまでした。家庭では焼き芋より、手っ取り早く蒸かし芋を作っていたかと思います。

いつ頃からか、安納芋ブームがあって丸い形の安納芋がスーパーに並ぶようになり、今は紅はるかシルクスイート等、いろんな種類のさつまいもが並んでいます。

  

鳴門金時長紡錘形。果皮は紅色、果肉はクリーム色。ホクホク。上品な甘み。
ベニアズマ長紡錘形。果皮は濃赤紫色、果肉は黄色。ホクホク。上品な甘み。
安納芋丸い形。果皮は褐紅色、果肉は赤っぽいオレンジ色。加熱すると濃い黄色に。
ねっとり。強い甘み。
紅はるか長紡錘形。果皮は赤紫色、果肉は薄い黄色。ねっとり。強い甘み。
シルクスイート
紡錘形。果皮は濃い赤紫色、果肉はクリーム色。ねっとり滑らか。強い甘み。

 

さつまいものお菓子いろいろ

昔から秋になると、サツマイモや栗を使った期間限定のお菓子が出回りますね。

さつまいもの品種改良が進み、さつまいもの種類が増えたことから、近頃は「〇〇芋を使った××」等、サツマイモの種類を目玉にした商品が販売されています。

私がスーパーで見た商品は明治のきのこの山ですが、調べたところ、大手菓子メーカーのブランド菓子の商品ラインナップには、「安納芋」を使っている商品が結構ありました。

安納芋の強い甘みと水分量の多いねっとりした食感は、お菓子との組合わせがいいのかもしれませんね。

さつまいもの普及と吉宗公

さて、食料自給率が低い日本で、ほぼ国内でまかなえるのが米、さつまいも、みかんです。調べたところ令和4年のさつまいもの自給率は96%。

今日のさつまいもの普及は、江戸時代、紀伊(現在の和歌山)出身の八代将軍徳川吉宗公の働きがあったからです。

さつまいもは、1605年に中国から琉球(現在の沖縄)に伝わり、薩摩藩(現在の鹿児島)を経て九州、18世紀に全国へ広がったとされています。正式名は「甘藷(かんしょ)」。

1732年(享保17年)の「享保の大飢饉」をきっかけに、吉宗さんは、さつまいもの研究者で蘭学者の青木昆陽(かんしょ先生)が推奨する甘藷の栽培に取り組みました。

薩摩藩など、さつまいもを栽培していた地域ではほとんど餓死者がでなかったことから、吉宗さんは、痩せた土地でも栽培できるさつまいもに着目したそうです。

1735年には小石川御薬園および養生所構内、下総国馬加村(現千葉市花見川区幕張)、上総国不動堂村(現千葉県九十九里町)で、サツマイモの試験栽培に成功。

千葉、埼玉、茨城県を中心とする関東一円に普及。飢饉の際に役立つ救荒作物としてサツマイモの栽培は全国に広がったそうです。

江戸中期には、サツマイモの様々な料理方法が載った料理本『甘藷百珍』が登場。料理本の中には123品ものサツマイモ料理が紹介される等、庶民にサツマイモが拡がっていることがわかります。

江戸の焼き芋

焼き芋はかまどに「焙烙(ほうろく)」という素焼きの土鍋を置いて作られたり、後に鋳物の平鍋で作られたそうです。

焼き芋は木戸番の副業だったそうです。当時の江戸は、町の入口と出口に木戸が設けられ、木戸番が朝晩の木戸の開閉、火の番をしていたことから、副業として焼き芋を売っていたそうです。

木戸番は御用聞きの手伝いもしたそうです。木戸番小屋はテレビの時代劇でよく見ますが、焼き芋を売っている所は見たことがなかったです。

また、自身番屋は町民が町の警備をするために、江戸の各町に設けられた番所のこと。奉行所の監督下に置かれているそうです。

木戸・木戸番小屋・自身番が載っている絵がありました。

喜田川季荘 編『守貞謾稿』巻3,写. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2592392 (参照 2024-10-30)

江戸の甘味料

ところで、江戸の初期は砂糖が貴重だったそうです。餡も甘い餡ではなく塩餡だったとか。甘いものをどうしていたのかと思い調べたところ、黒砂糖が手に入るようになるまで、庶民の甘味料は水あめだったそうです。

テレビの時代劇を見ていると、よく飴売りが出てきますね。

水あめは、穀物や芋類に含まれるでん粉を、大麦麦芽(麦もやし)に含まれる酵素で糖化してつくる甘味料の麦芽糖。先程ご紹介した焼き芋の甘みです。ちなみに砂糖の主成分はショ糖。

粟おこしや落雁等のお菓子にも水飴が使われているようです。

江戸時代後期になって黒砂糖が使われるようになり、甘いお汁粉や饅頭が食べられるようになったそうです。

江戸時代、お米に代わる救荒作物として広まったさつまいもですが、主食、副菜、甘い物のひとつとして、庶民に愛されたことでしょう。

さつまいもご飯、芋がゆ

令和の米騒動は新米が出回り一旦は落ち着きましたが、価格が下がらないようですね。
こんな時は、さつまいもご飯はいかがでしょうか。

炊き込みご飯は私たちにとってリッチな感覚ですが、もとは少ないお米でもご飯が食べられるようにと、いろんな具を混ぜてかさ増ししたのがはじまりと言われています。

我が家は普段は茶粥ですが、たまにお米とさつまいもで白かいさん(芋がゆ)を炊きます。

さつまいもは皮をところどころ残して剥き、大きくごろっとした大きさに切ります。米から炊き、少し経ってから芋を入れます。味付けは塩だけですが、さつまいもの甘みが味わえます。

さつまいもの普及に務めた吉宗公がモデルの時代劇、『暴れん坊将軍』でも見ながら、秋の味覚、さつまいもを使った炊き込みご飯や芋がゆを頂くことにしましょう。

 

(参考資料)
・日本いも類研究会
https://www.jrt.gr.jp/q_a/spqa_yakiimo/
・サツマイモの近代現代史 財団法人イモ類振興会
https://imoshin.or.jp/wp-content/uploads/sp-modern-history-all.pdf
・農畜産業振興機構
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_000274.html
・江戸食文化紀行 水あめ
https://www.kabuki-za.co.jp/syoku/2/no158.html
・日本いも類研究会 
なると金時 ベニアズマ
https://www.jrt.gr.jp/
・カネコ種苗 
シルクスイート 
https://kanekoseeds-p.jp/products/%E3%82%B7%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%88-2/
・農研機構 べにはるか
https://www.naro.go.jp/collab/breed/0100/0102/001374.html
・農林水産省 令和5年度食料自給率について 
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html
・江戸期における番屋の仕組み
https://ameblo.jp/yoshida1049/entry-11487110573.html
(画像)
・喜田川季荘 編『守貞謾稿』巻3,写. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2592392 (参照 2024-10-30)