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メジャー名「のどぐろ」 マイナー名「アカムツ」

皆さま、こんにちは。今月は初旬に雨が降っただけで、その後は6月とは思えない真夏のような暑さが続きました。月末になってようやく梅雨らしいまとまった雨が降っています。

先日、隣町の貴志川の産直市場に行ったところ、「あら川の桃」が出回っていました。「あら川の桃」は、江戸時代から栽培が行なわれている、和歌山県紀の川市桃山町で採れる桃です。

毎年桃の販売は6月中旬頃から。まだそれほど大きな玉ではなかったですが、桃のシーズンを楽しみに待っていた人たちが箱で買っていました。

「あら川の桃」は、私もこの時期のお遣い物にすることが多いです。

6月末現在、「桃山白鳳」「日川白鳳」「八幡白鳳」「紀の里白鳳」がシーズンを迎えています。

石川でのどぐろゲット

さて、先日副社長と石川へ出張しました。石川県漁協さんの事務所が金沢港に移転して初の訪問でした。帰りにちょうど向かいに観光客向けの市場「いきいき魚市」があったので覗いてみました。

魚屋さん、立ち食いの寿司屋さん、買ったお魚を料理して食べることのできるイートインコーナー等の店舗が入っていました。

魚屋さんには地元で獲れたお魚がずらりと並び、その半分程度が「のどぐろ」でした。

子供の頃から「のどぐろ」には馴染がなかったです。以前、母がグルメ番組を見てのどぐろに興味を持ち、鳥取へ出張の際、のどぐろの干物を買ってきて食べたのが最初です。

脂がのって美味しかったのを覚えています。今回も母に頼まれていたので、いろんなお店ののどぐろを見てまわりました。

30~40㎝もある大きなのどぐろのお値段は何と2万5千円程度。高級魚であることは知っていましたが、こんなにするとは思わなかったです。

副社長は先程の画像の下の方にある12、3㎝程度のサイズののどぐろが5匹入って1カゴ千円の商品を、私は干物を買いました。

約20㎝ぐらいの大きさの干物が3枚で3千円程度でした。普段食べてる鯵の干物とはまた違って、脂ののった白身魚はとても美味しかったです。

「のどぐろ」は「アカムツ」だった

さて近年高級魚として知られているのどぐろですが、調べたところ、正式名称は「アカムツ」。「のどぐろ」=「アカムツ」だったのです。

周りに聞いてみたところ、「アカムツ」は白身魚にしては脂がのっている魚で、煮付け・焼き魚など定食のおかずになり、それほど高級魚ではなかったという話でした。ネットにも同じようなコメントがありました。

いつから「のどぐろ」と言われるようになり、高級魚になったのでしょうか。調べて見ました。

のどぐろブームのきっかけ

のどぐろが有名になったのは、島根県出身のテニスプレーヤー錦織圭氏が、2014年全米オープンテニスで準優勝した時のインタビューで、地元ののどぐろが食べたいと言ったことがきっかけだそうです。

魚は地域や成長過程によって名前が違うことがありますが、日本海側の北陸・山陰地方では「アカムツ」のことを「のどぐろ」と言うそうです。

喉の奥が真っ黒なことから「のどぐろ」と言われるようになったそうです。

翌年の2015年には北陸新幹線開通。日本海側へ新幹線が繋がったことで、のどぐろ等日本海の幸を求めて、観光客が増えたと思われます。

普通に親しまれていた魚が、ある出来事を境に、グルメ番組などで取り上げられ、価格も高騰して、いつの間にか高級魚に。そして、名前も「アカムツ」よりも「のどぐろ」が使われるようになったようです。

マーケティングに詳しい友人にこの件について聞いてみたところ、意見を聞かせてくれました。

のどぐろブームきっかけのポイントは3つ。

・影響力のある情報発信する人(インフルエンサー)が有名スポーツ選手だった
・情報発信の場がインタビュー会場だった(大勢のメディアがいた)
・一見一般に知られていない名前の魚だった

メジャ-な魚ではなかったことが、「のどぐろってどんな魚?」と注目され、話題になりました。

「のどぐろ」=「アカムツ」で、「のどぐろ」は日本海側の一部地域での呼び名、ということよりも、ミステリアスな貴重な魚としてイメージ付けられたように思う、と言っていました。

「のどぐろ」の価値が高まるにつれ、食品業界は「のどぐろ」の名前を使うようになり、「アカムツ」よりも「のどぐろ」の呼び名の方が一般化したようです。

「のどぐろ」を買うと、パックに標準和名「アカムツ」の名は記載されていると思います。

私も「のどぐろ」=「アカムツ」だと知らなかったですし、周りに聞いても「のどぐろ」が「アカムツ」だと知っている人はいませんでした。

調べたところ、昔から「アカムツ」が好きな人達は、普通に食べてた魚で高級魚じゃなかったのに、のどぐろになった途端値段が上がって手がでない、等のコメントがありました。

「のどぐろ」=「アカムツ」について

「日本産魚類検索全種の同定第三版」を元にした情報などによると、アカムツは水深60メートル〜600mの大陸棚及びその斜面に生息。生息海域は広いです。

青森〜九州の日本海・東シナ海   
北海道〜九州の太平洋沿岸        

日本近海の深い所にいます。新潟辺りから長崎辺りまでの日本海側で多く漁獲され、長崎・山口・島根・石川・新潟が、のどぐろ産地として知られています。

漁の方法は産地によって異なりますが、定置網、刺し網、底引き網、ごち網、延縄、などがありますが、底引き網が多いようです。

生息している水深は水深60メートル〜600mの大陸棚及びその斜面とのことですが、大体は100~200mだそうです。

平均は30~40㎝で大きいものになると50㎝ぐらいになるそうです。1年を通じて獲れるようですが、旬は秋から冬。産地によって少しずつ異なります。

石川 9月~12月 
新潟 7月~9月 
山口 9月~10月
島根 9月~12月
長崎(対馬) 9月~12月 

各産地は差別化を目指しており、ブランドのどぐろも誕生しています。

『どんちっちノドグロ』 島根県浜田市

『美宝』 新潟県  

『紅瞳』 長崎県対馬

日本海側ののどぐろが太平洋側に

今年に入って、太平洋側の宮城県でのどぐろの漁獲が急増しているとの情報があります。
専門家の話では、海水温の上昇による影響で、日本海側にいたのどぐろが津軽海峡を越えて太平洋側へやってきたと見ているようです。

本来イワシの産地である千葉でイワシが獲れず、津軽海峡を越えて日本海側の石川や富山辺りで獲れていると以前ブログで書きました。その逆の現象になっているようです。

地域によって名前が違う魚と言えばブリ

魚は地域や成長過程によって名前が違うことがありますが、日本海側の北陸・山陰地方では「アカムツ」のことを「のどぐろ」と言い、それがブームとなるポイントの一つでした。

地域によって名前が違う魚として、最も知られているのは「ブリ」だと思います。

ブリは回遊魚で日本各地の沿岸に生息しています。調べたところブリはアジ科。ブリがアジ科とは意外でした。

成魚になれば「ブリ」ですが、成長過程と水揚げされた地域によって名前(呼び名)が違います。

 1年目2・3年目4年目5年目
大きさ10㎝未満の稚魚20㎝程度

西:30㎝以上40㎝未満

東:35㎝以下

西:40㎝以上60㎝未満

東:35㎝以上60㎝未満

西・東:
60㎝以上80㎝未満

西・東:

80㎝以上

西日本モジャコ

ツバス(九州)
ツバイソ(富山)
コヅクラ(石川)
アオコ(山形)

ヤズ(九州)
フクラギ(富山・石川)

ハマチメジロ
ガンド(富山・石川)
ブリ
東日本ワカシ・ワカナイナダワラサ

西は「ハマチ」東は「イナダ」

東京近郊に住む西日本出身の友人に、スーパーに「ハマチ」と「イナダ」が置いてあるか尋ねたところ、「ハマチ」はあまり見かけない、「イナダ」と「ワラサ」なら時々あるとのことでした。

早速、房総沖で獲れた「ワラサ」のお刺身があったから買ってきたと、画像を送ってくれました。冬場と違って脂がのってないものの、さっぱり味で臭みもなく、とても美味しかったそうです。

ワラサはブリの若魚で、東の「ワラサ」は西では「メジロ」、西の「ハマチ」は東では「イナダ」、と伝えたところ、「ハマチ」=「イナダ」とは知らなかった、「ハマチ」と「ブリ」は別の魚と認識してた、とのことです。

というのも、友人の出身地四国では「ハマチの養殖」と言ったそうです。

ブリ養殖の盛んな西日本では、養殖したブリのことを「ハマチ」と言い、それが全国に普及しています。

魚介類の名称について水産省のガイドラインがあります。
ブリのように地域によって名前の異なる魚は、その名前が一般に理解される地域においては、地方名を記載することができます。そうでない場合は、標準和名を併記することになっています。

ハマチの場合は天然か養殖か。天然の場合は西日本はハマチかメジロかブリか、東日本はイナダかワラサかブリか。パックの表示をよく見てから買い物するようにしたいと思います。

ところで、養殖ブリの産地として知られる九州。毎年3月~4月、養殖用にブリの稚魚を獲るモジャコ漁が行なわれますが、最近ではモジャコが獲れなくなったと聞いています。

原因の一つに、流れ藻が少なかったことにあり、潮の流れが関係しているとの見方があるようです。

出張の際、各地の養殖ブランドブリを味わう機会がありましたが、それぞれ美味しかったです。

九州 鹿児島 『ブリ王』 東町漁協

四国 愛媛 『豊島ブリ』 愛媛県漁協連合会 

「脂っこい」を方言で言うと

さて、「のどぐろ」=「アカムツ」と「ブリ」の魅力は、脂ののりのよさ。
ブリの名前は、脂が多いことから「あぶら」→「ぶら」→「ぶり」と、発音が転訛したとされています。

「アカムツ」は、「むつこい」という脂ののりをあらわす言葉が転じて「ムツ」という名前がつき、赤い色のムツで「アカムツ」となったと言われています。

「脂っこい」を「むつこい」・「むつごい」と言う地域は多いようです。

四国・中国地方出身の友人によると、脂っこいもの・味の濃いものを食べた時に「むつこい」・「むつごい」を使う、と言っていました。

私の住んでいる和歌山では、「脂っこい」を「ねつこい」・「ねちこい」と言います。隣の大阪でも、「ねつこい」・「ねちこい」と言ったかと思います。

魚の名前から、その表現まで、地域によって様々とは。

他藩との行き来が簡単ではなかった江戸時代の体制が、独自の言葉(方言)を産んだという見方もあるようです。

江戸時代、女の一人旅は難しいと小説や時代劇で見ました。そう考えると、ある時は会社の車、またある時は電車・飛行機・船などに乗り、気軽に日本各地へ出張できるのはありがたいことだと、改めて思いました。

(参考)
・旬の食材百科 
https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/fish/akamutu.ht
・首都圏ナビ
https://www.nhk.or.jp/shutoken/articles/101/006/78/
・新潟県 https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/suisan/bihou.html
長崎県津島市
https://www.city.tsushima.nagasaki.jp/material/files/group/26/gyozukan-all.pdf
築地市場
https://www.tsukijiichiba.com/user/collection/1312?srsltid=AfmBOoovjZptmmaQocFZ1mjqBY9cXD-7W2o2Hx575-y_-D01V1ymnqT0
・kht-tv 東日本放送     https://www.khb-tv.co.jp/news/15602592
・FRA 国立研究開発法人 水産研究・教育機関  https://jsnfri.fra.affrc.go.jp/kids/buri/kw6.html
あら川の桃振興協議会  https://aramomo.server-shared.com/index.html
・マルイチ産商 https://www.maruichi.com/osakana/toto_recipe/post-52.php
農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/heya/pdf/guide_line.pdf
八面六臂 https://hachimenroppi.com/wiki/details/buri/